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権利擁護について

権利擁護について   弁護士 西村武彦

知的な障害のある児童・生徒が何らかの権利侵害をうけたり,行った場合,どのように対処すればいいか?一緒に考えてみてください。マニュアルというより,擁護者になるために勉強だと思ってください。


Q,知的な障害のある児童,生徒(以下「息子さん」と書きます)が,いじめ,セクハラの被害者になっている場合
A,「いじめ」は主に生徒が加害者です。「セクハラ」は主に教員が女子生徒にします。養護学校や特学では「セクハラ」も多数ありますが,学校という「塀」の中での出来事で,かつ,回りに知的な遅れのある生徒しかいないので問題として明るみにでないという実情があります。
  対処方法は,知的な遅れのない児童,生徒のケースとほとんど同じです。親の中には養護学校の先生は専門家だと信じきっている人がいますが,仮に専門家であっても「セクハラ」は起きます。また「いじめ」を見過ごすこともあります。
@ 親はいじめの実態を記録しなければなりません。
 知的障害のある息子さんから,いじめの事実を出来るだけ正確に,親の思いなどをいれずに聞きとってください。親がストーリーを作って聴き取る(これを誘導尋問という)ことはやめてください。息子さんが理解しているを聞きとるのが先決です。
A  次に,担任や養護の教諭から聴き取りをしてください。   但し,学校の先生は学校という組織防衛をしますので,真実を述べることはありません。教員は適切な調査をしないで話すことがありますが,それでもいいので記録を作ってください。いつ,どこで,誰から,どのような話を聞いたのか,あなたが責任をもって書面,メモを残してください。
   息子さんから聴き取りをする前に,教員から先に聞いてはいけません。そんなことをしたら,あなたは息子さんは嘘をついていると思うでしょう。何故ならあなたは学校を信奉している信者ですから。
B それから,子ども達からも聞いてください。
  加害者を叱るだけでは駄目です。何故なら,息子さんの障害を十分理解しないまま関わってきたかも知れないのです。学校が息子さんの障害を適切に理解する意欲をもたないような場合,児童,生徒たちは関わりの中で息子さんを理解するしかないからです。
C  このような事実調査をしたら,必ずファイルしてください。
D  そして,いじめであるとあなたが理解した場合,次に何を問題にするのか検討してください。
  息子さんの側にも問題があるから,息子に教育をしようというのは薦めません。教員は一般的な「いじめ」問題では,いじめられる子どもにも問題があるのですといいますが,これは間違いです。いじめる側に問題があるのです。
  そこで,加害者を問題にするか,加害者の親を問題にするか,学校の関わりを問題にするか,現在のありようの変化を求めるか,損害賠償を求めるか,本人の尊厳,勇気の回復を図るか,仲間と検討してください。
E 早い段階で弁護士をいれることも薦めます。学校側に調査を求めたり,娘さんからセクハラの事実を聞き出すことは弁護士の方があなたより上手いです。というより,あなたは事実に尾ひれをつけるでしょうから。

Q 知的な障害のある男子生徒が,「駅前の通路で女子の後をつけた」という疑いで駅で補導されました。母親であるあなたはどうするか?
A@ 駅からそのような電話が自宅にくると,母親ならそれだけで卒倒しそうになるでしょう。ですから駅についたら,まず公安職員に対しお詫びの言葉がでるかもしれません。しかし,本当に「後をつけたのか」後をつける意思があったのかどうかを,本人から丁寧に聞いてください。
A  駅についたら,まず公安職員の話を聞くのは構いませんが,息子さんの説明を丁寧に聞くよう,公安の職員に,息子さんの障害の説明をしてください。これはとても大事なことです。何故なら,息子さんは障害のため,公安職員の質問に「はい」「はい」と答え,そのため,被害届けを出した女性に更なる誤解を与えているかもしれないからです。また,そうでなくとも,障害の特性や障害ゆえの個性を説明する必要は親ゆえにあるからです。
B  その際,息子さんが自分が何を行っていたのかを,息子さん自身が説明できるような形で聞いてください。息子さん自身自分の行動の根拠などを説明できないかも知れませんし,息子さんが全く意に介していない行動を女性が誤解したのであれば,息子さんに思いださせること自体できないかも知れません。しかし,母親と息子さんの,これまでの関わり方が問われる場面となりますが,是非,息子さんの本当の気持を聞き出してください。
C  その上で公安職員が述べたように,本当に軽犯罪法違反の行為であったのであれば,息子さんにその行為が何故問題なのかを,理解してもらうべく,その後仲間と共に考え,勉強しましょう。「施設にいれるよ」という脅しはしないでください。また叱るという行為だけでは解決はしないということを理解してください。何故なら,愛する母親が涙を流して叱れば,その悲しい場面故行動を抑圧するかも知れませんが,それによって学習すべき内容がわからなくなってはいけないからです。
D  もし,後をつけたのではないとか,そのような行動が彼の障害の特性だとしたら,それは母親が勇気をもって,公安職員に誤解だと説明しなければなりません。女性に対しても誤解だということを説明しなければなりません。安易にお詫びをいうだけでは駄目です。何故なら,息子さんが深く傷つくからです。そして公安職員も,市民も知的障害者を理解する大事な機会を失うからです。

Q アスペルガーという障害の疑いのある生徒が,学校で他の生徒の筆箱を隠しました。教員からそのようなことを聞いたとき,母親であるあなたはどうしますか?
A@,まず,その行為の外形的事実(いつ,どこで,どのような態様か,被害者は誰)を教員から聞いてください。筆箱を隠す行為はそれだけを見れば悪い行為です。しかし,息子さんはアスペルガーという障害があります。その障害は他人との意思疎通に問題が生じ易い障害だということですから,筆箱を何故隠したのかという動機を明らかにしなければ,外形だけが一人歩きしてしまいます。動機,事情を聞きましょう。
A  コミュニケーション障害のない人であれば,自分にとって嫌なことがあった時,その人なりの方法で,それが自分にとっては嫌なことであると伝えることができるかも知れません(日本人はそういうことがそもそも苦手な生き物かもしれないが)。勿論,その人なりの方法なので,直接相手に言葉でいう方法をとるケースもあれば,親に相談という形で心の傷を癒そうとすることもあります。しかし,アスペルガーの方はそういうことが苦手なわけです。
B  そこで,被害を受けた子どもに,あなたの息子さんへの印象を聞く必要があるかもしれません。息子さんがあなたに自分の気持を伝えることが苦手であっても,被害を受けたとされる子どもさんの言葉で,息子さんの様子を聞くことで,被害者と息子さんの日常的な関係が理解できることがあります。つまり,被害者が実は日常的には加害者であるということも判るかも知れません。勿論,被害を受けたとされる子どもさんへの聞き方には配慮が必要ですが,それは障害のある子どもの母親であるあなたが勉強して身につける技術です。あなたの子どもさんに対する無視した態度,バカにした態度,あてつけた態度や障害を理解できない能力から,その子どもが息子さんとどのような関係を作ってきたかを知ることができます。
C  その結果,息子さんは報復活動として筆箱を隠したとなるかも知れません。そうではなく,自分の何かを気づいてもらおうとしたかも知れません。加害行為という行為に,息子さんの思いがあると考えることが重要です。
D  学校の先生には,息子さんの障害について勉強して貰うことは必須です。アスペルガーとか,自閉症とか,ADHDとか,学習障害だとかについては,学校の先生は専門家(養護学校の先生が教員養成機関で深く勉強していないはずです)ではありません。このような不幸な出来事を契機にして,分かり合える関係を作ればいいのです。

 なお,法律の知識としては,刑法,軽犯罪法,民法,児童福祉法,児童虐待防止法,子どもの権利条約,教育基本法などは,これらの相談のベースになる法律ですが,これらの法律で子どもさんの権利擁護に資する規定は,別に機会に譲ることにします。学校事故,いじめ,セクハラ,障害児教育などに関わることのある弁護士としては,障害児の親は,学校(含む養護学校)が障害などについて適切な知識をもっていると信じ切っている親が多すぎます。確かに素晴らしい先生もおりますが,ただの公務員にすぎない教員も無数にいます。あなたの子どもを守るのは誰ですか?

2003年版
c.f. 〜もしもスイミングスクールに断られたら〜 (2001)





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