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支援費制度

その支援費支給決定、ちょっと待った!?

イラスト 小出律子さん 「アートバンクあらかわ」より借用
「アートバンクあらかわ」
岡部 耕輔
支援費制度と地域生活とホームヘルプサービス

     「障害のある人があたりまえに地域で暮らす」というノーマライゼーションの思想が浸透し、一方で、財政削減のため国もようやく「脱施設」「施設解体」に重い腰をあげようとしており、その結果、今年度からの新障害者プランには、入所施設数の数値目標は遂に掲載されませんでした。
     今度の支援費支給制度の「要」は、施設サービスではなく在宅支援サービス(つまり地域であたりまえに暮らすために必要なサポート)であり、そして、その中心は、ホームヘルプサービス(ガイドヘルプを含む)です。支援費制度におけるホームヘルプサービスは、介護保険制度と違って、基本的には家族介護の負担軽減のための制度ではなく、障害をもつその人自身の自立生活を支えることを目的としています。(そのため、パーソナルアシスタンスサービス呼ぶべきだという意見もあります)従って、介護保険制度における要介護認定のような制度上の支給量上限もなく、「必要とする人に必要なだけ」を基本とする画期的なしくみとなっています。ホームヘルプサービスを有効に活用すれば、施設に入らずに、家族と一緒に暮らしていても、一人で暮らしていても、グループホームで暮らしていても、その生活のサポートが得られる・・これで、障害のある我が子の未来の地域生活の展望が開ける・・と期待は高まるばかりです。
     しかし、このような画期的な制度にも、現実的には、いろいろ注意しなくてはならないところがあります。
ホームヘルプサービス上限問題

     まず、現実に、本当に必要な人に必要なだけの支給決定が行われるか、これが問題です。
     制度開始直前になって、折からの財政危機、国も自治体も急に「懐具合」が心配になりつつあります。たとえば、介護保険制度を開始したときのホームヘルパー利用は、制度が開始された平成12年をはさむ平成11年から平成13年までの3年間の利用実績で、対前年比53%増、110%増と飛躍的に増大しています。しかし、知的障害と児童の分野でこれから大幅な利用増が見込まれる支援費制度のホームヘルプサービスにおいて用意されている国の予算は、たったの前年比実質10%増に過ぎませんでした。そこで、厚生労働省が、自治体に対する支援費補助金基準を通じて、ホームヘルプサービス支援費の給付を抑制しようとしたのが、平成15年1月、支援費制度開始直前におこった「ホームヘルプサービス上限問題」という事件でした。多くの障害をもった当事者や家族が厚生労働省を囲んで交渉を続けた結果、制度や予算として明らかな上限をつけることはなんとか回避されました。しかし、なるべく支援費支給を抑えたい、という国や自治体の「圧力」がかならすしもなくなったわけではありません。
ホームヘルプサービスの予算を地域福祉計画に!

     ホームヘルプサービスは、お手伝いさんを雇うとか、サービスとか贅沢品・嗜好品の購入とかとは違います。障害のある人の自立と社会生活の維持のための福祉サービスが、軽んじられていいわけがありません。そもそも、日本全国のホームヘルプサービスの支援費の国・自治体あわせての予算総額は560億円、これは、介護保険財政と比較すると1%、高速道路の建設費でいえば、僅か2km分程度にすぎません。そもそも用地代・建設費も含めた入所施設にかける税金に比べたら比較にならない額です。しかもそれはヘルパーとして働く地域住民の雇用や学生の有意義なアルバイトにも繋がります。地方自治体の第一の役目が、公共事業から福祉に移って久しい折、また福祉教育の必要性が喧伝される折、ホームヘルプサービスへの資源投入による、地域への経済効果・教育効果も見過ごせません。といっても、もちろん税金を使うわけですから、こういったことは、しっかりしたサービス利用実績やニーズ調査を踏まえ、予算や数値計画をもって、きちんと市民に示される必要があります。このために、自治体が地域福祉計画をたてることが、法律で定められています。しかし、残念なことに多くの自治体では、形だけの市民参加で、サービス利用者の参加も保証されずに、行政主導型の、あるいは抽象的な福祉計画が策定されている場合も多いようです。利用者側も、ホームヘルプの利用時間や総予算などを盛り込んだ地域福祉計画の策定を強く求めてゆく必要があるでしょう。
ホームヘルプサービスの支援費支給について各地の状況

     制度開始直後(平成15年6月現在)の状況では、ホームヘルプサービスへの支援費(居宅介護支援費)の利用時間数には、かなり厳しく押さえ込まれているところも多いようです。 多摩北部の各市を例にとると、支給申請に対する自治体の対応は、@(少ない時間で)一律、A前年利用実績並み、B対象・サービス限定(児童は移動介護のみしか認めないなど)、という3つのパターンよる利用抑制が図られ、利用者本人の必要性(ニード)が、聞き取りは行われても現実的にはほとんど反映していないこともあります。また、居宅介護(ホームヘルプサービス)の時間はださないかわりに、申請もしていないショートステイを一律に支給決定してきたり、知的障害には身体介護単価のガイドヘルプサービスは一切支給決定しないなどの対応、あげくのはては、「子供の世話は親がするのが当然(だから児童は支給しない)」などの暴言を吐く自治体もありました。(家族介護の軽減ではなく本人のため自立生活支援のための制度ということを全く理解していない自治体があるということは残念なことです)
     しかし、こういった状態のなか、困難を克服しながら、新しい関係も始まっているようです。いままで市役所に足を踏み入れたこともない若い親たちが、不服申し立て(これはあとで説明します)も辞さず時間数獲得のための行政交渉を繰り返しています。その結果、不服申し立てにまで至らなくとも、再審査などを通じて本来のニーズ(必要)に近い利用時間や単価増の獲得に結果するものも出てきており、さらにその情報をネット等で交換しながら、それぞれの自治体で取り組みが進んでいます。駄々っ子のように要求するだけでもなく行政の決定にそのまま従うのでもなく、支援費制度が基本とする行政との「対等な関係」に立って、ひとりひとりのニーズ(必要)をきちんと判るように整理し、しっかりと訴え、その結果実績を獲得してゆく利用者ひとりひとりの取り組みが必要です。そして、さらにひとりひとりの活動を、来年からの自治体の予算獲得や福祉計画のローリング(見直し)につなげてゆかねばなりません。自立し支えあう利用者のための立場(当事者・親・支援者)を超えた新しいネットワークと住民のみなさんの理解と支援が必要です。
居宅生活支援費の申請から支給決定までの実際

    というわけで、支援費の支給申請をどう行い、どうやって必要なだけの支給決定をうけるかということが、よく理解されていなくてはなりません。
     支援費制度の支給決定は、介護保険制度と違い、利用者が直接福祉事務所に、具体的に望むサービスを決めたうえでその必要時間を申請し、市の職員である担当者(ケースワーカー)が、その判断を下すという制度となっています。そのことをもう少し具体的に理解し考えてゆくために、実際の支給決定の流れとポイントを順を追って説明しましょう。
    (1)「このサービスをこのくらい使いたい」と利用者が「支給申請」します
      福祉事務所で市の所定の申請書を貰って、必要事項を記入して提出します。
      ・知的障害の場合は障害手帳は必須ではありません。
      ・申請は、本人の名前であれば、友達からでも、施設職員からでもできます。
    (2)市の職員が「実情」を把握するために「家庭訪問」と「聞き取り調査」をします。
      調査のために利用者宅に市の職員(ケースワーカー)が聞き取り調査にきます。
      ・このときが一番のポイントです。
      ・できれば、資料を作って、必要性をきちんと訴えましょう。いままでサービスを受けていた事業所のコーディネーターなどに同席してもらうのも有効と思います。
    (3)聞き取りをした結果に基づき支給決定がされます
      支給決定通知とともに受給者証が発行されます。ここに利用時間等の記載があります。
      ・あくまで、利用者の必要(ニーズ)に応じて決めることになっています。
      ・しかし、現実の手続では、決定条件等は原則的には明らかにされません。
    (4)行政の決定に不服があっても特別のしくみはない
      これが支援費制度の大きな欠陥といわれています。
      ・介護保険制度とちがい、不服審査のための専門のしくみはありません。
      ・解決ができないときは、「行政不服審査請求」を行うことになります。
支給決定に不服のとき

     このように、聞き取り調査はするものの、そのあとは一方的に自治体が決定してしまい、その間の調整のしくみがない制度のため、申請と支給決定を巡り、さまざまなトラブルや混乱がありえますし、現実にも生じています。このような制度なので、役所の担当者が話を聞いてくれない、話に納得がいかない、再審査に応じてくれない場合は、異議申立をするしかない場合もありますので、以下にそれを紹介いたします。
     まず、もう一度、支給決定についてケースワーカーに「相談」に行きます。その結果、「では、再び聞き取り調査を行います」ということになれば、それをお願いしましょう。しかし、いろいろいわれてはぐらかされる場合もあるようです。
     たとえば・・・ホームヘルプを35時間使いたいのですが。
      →そんなに使う必要はないでしょう。20時間なら認めます。
      →そもそも知的のホームヘルプを扱う登録業者はありません。
      →ホームヘルプではなくて一時預かりなら認めます。
      →ガイドヘルプは、支援費の対象になりません。
     こういう受け答えではぐらかされ、納得できない、なんだかわからない、そんな状態であれば、ケースワーカーに言われるままに申請内容を変えるのではなく、自分が求めたい内容と量のサービスを申請を出してみましょう。(利用者が自分の求める申請を出すことは利用者の権利であり、拒むことはできないことを覚えておきましょう)
     その再申請の結果、再び納得の行く結果が得られなかったとき、または、そもそも再申請を受け付けようとしないときは、ケースワーカーに以下のようにはっきりと伝えましょう。
     「では行政不服審査法6条1項に基づく異議申立をします。処分内容と理由を示した書面を要求します(行政手続法8条)。また異議手続について書面で教示願います(行政不服審査法57条1項)」 そんな格式ばった言い方をしなくても、不服とする支給決定を持って福祉事務所に行き、とりあえず次のひとことをいうだけでも結構です。
     「異議を出します。」そして、続いて「異議の手続を教えてください。」
     これで、役所のほうで必要事項のうち処分の内容や、申立機関、相手方などは、書面で教えてくれることになっています。(不服審査法57条一項の教示義務)
     この異議申立があると役所は、決定で却下・棄却をするか、理由があると認める場合には、前の処分を変更するか、そのいずれかの応答をする義務が生じます(47条1項以下)
     しかも、変更する場合に変更前に比べて不利益となる変更決定をすることはできません(47条3項)。たとえば40時間の申請に20時間しか認めないので異議をだしたら15時間になった、なんてことはありえないはずです。不服申請は、利用者の権利であり、必要な場合はためらうことはありません。
       ただし、異議は、処分を知った日から60日以内に原則書面で行うことが要求されていますのでご注意ください。
セルフ・アドボケイトが支援費制度の基本

     このように、支援費支給制度が、自己決定・利用者本位の制度であるということは、セルフ・アドボケイト(自らが自分の権利を守る)が基本となった利用制度であるということを示しています。
     いままで述べてきたような支給申請や支給決定、さらにそののちの良質のサービスを提供できる事業所探し等、介護保険制度等に比べても利用者側には大変なようにみえるところも多いかもしれません。しかし、支援費制度は、その代わりに必要に応じ上限のない自由度の高いサービスが受けられる制度でもあります。だから、高齢者とは違い地域で必要なサービスもはるかに多岐にわたり、機械的な身体介護よりも、社会参加と自立生活支援のニーズ(必要)が極めて高い障害のある若い人や子供たちのライフスタイルに即した地域生活を守ることを考えると、このような制度を守り使いこなしてゆく必要があるでしょう
     このように、今までの受身の利用者から、バージョンアップすることは、なかなかひとりでは難しいこともあります。「必要な人に必要なだけのサービス」を得るためには、利用者ひとりひとりの「知識・仲間・勇気」―制度についての知識・情報を交換し励ましあう仲間たち、そして、きちんと交渉し、必要があればクレームをつける勇気―がもっともっと必要です。そして、個別の支給決定交渉とその結果の予算や福祉計画への反映、そういった一連のことを地域の市民のみなさんに知ってもらう活動が欠かせないことでもあります。
     リソースセンター いなっふ は、そのような利用者ひとりひとりの活動を応援するところです。お気軽にご連絡ください。
<謝辞>
     本文中、「支給決定に不服のとき」の節は、佐藤彰一氏(法政大学)と名川勝氏(筑波大学)作成の「支援費申請、だめだといわれたら」を若干の翻案をすることで、使わせて頂いております。読者にお断りするとともに、快諾いただいた両先生に改めてお礼を申し上げたいと思います。
障害のある人・子供とその家族のためのリソースセンター いなっふ

URL http://www.eft.gr.jp/enough/

あどぼ相談  koka@eft.gr.jp  TEL 090-3315-3113
2003年版

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