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「性」について (1)「思春期・青年期の性教育」 / (2)「お父さん、出番ですよ」 / (3)「性教育の内容と目標」

思春期・青年期の性教育 〜様々な偏見をなくして豊かなセクシャリイテイを〜
                                心障学級担任  永野佑子

皆さんは、性についてどうお考えでしょうか。一般に障害児の母親は、大変、性について心配します。「みっともないことはしてもらいたくない」と男の子の性器いじりをとてもイヤがりますし、性の加害者になるのではないかと、心配をします。女の子については、役にも立たない月経がきたと嘆いたりします。いずれにしても、性について否定的な考え方が強く、その前提には”障害”を否定的に考え、障害児本人の気持ちや性的発達に心を添えるということができないでいるようです。障害児の性教育を考えることで、障害をもつ子どもと、その人生に対する見方を肯定的に考えられるようになって頂きたいと思います。

人間の生きることはすべて”性”なのです

人間の命のはじまりは、セックス(性交)での一個の卵子と精子の劇的な出会いから始まります。健康な受精卵はこれまた劇的な細胞分裂をして、270日近く母親の子宮内で人間の赤ん坊として形を整えていきます。一方では、無数の不健康な受精卵が流産ともいえない形で消えていってるのですから、生まれた子に障害があろうと、その子は生きる資格のある健康な子どもと言えるのです。胎児にとって、270日の子宮内の生活は、37度の羊水に包まれて、暖かくて窮屈ですが、とても安心できるところです。きっとここらで人間は性的心地よさ(エロス)が、潤うスキンシップを感じてきているのではないでしょうか。出産の時も胎児は産道を通りながら強い皮膚への刺激を感じていますが、人間の皮膚には毛がありませんので、人間は体全体が、どこでもスキンシップで性的な快感を感じるようになっているのです。
 さて生まれたあとも人間の赤ん坊はとても未熟で、母親やそれに代わる大人たちに抱かれ、手厚いスキンシップのもとで実はエロスが満たされて、情緒豊かに育ってきているのです。
 そういう訳ですから、人間は胎児期から幼・少年期、青年期、壮年期を経て、老人期、死に至るまで、一生スキンシップが必要で、エロスが満たされたい存在なのです。ですから、握手、抱擁、ほほずり、肩を抱くなどのスキンシップを普段の生活でもっともっと大切にしたいものです。

二次性徴を、期待感を持って迎えましょう

多くの生物は成体になる間に何回かの変態がありますが、人間では二次性徴がそれに当たることでしょう。子どもによって早い遅いの違いはありますが、障害児の二次性徴も健常児のそれとほとんど変わりがありません。女子の「発毛」「初経(月経)」は11歳から13歳にかけて、男子の「声変わり」「発毛」「精通(射精)」は12歳から14歳にかけてがピークです。特に中学校時代の成長は目覚ましく、3年間で、子どもの顔と体から、大人のそれに見事に変化します。
 日本という国は、学校でも家庭でも性について子どもに伝える力量がありません。そのため、健常児でもこの二次性徴を肯定的に受けとめることができずに苦しむことになります。障害児たちは、予測しない自分の体の変化に不安に陥ります。自閉症の子どもは突然生えてくる性毛を納得せず、性毛のみならず体中の毛を抜こうとしたり、勃起するペニスをハサミで切ろうとしたりする子もいます。射精をおもらししたと思って、汚れた下着を隠したり、膿が出たと思い、何かの病気だと思ったりもします。女の子の月経も病気か怪我かと思う子がいます。こんなに子どもたちが悩み苦しむのですから、学校でも家庭でも二次性徴を、期待感を持って迎えるように教えてあげることが大切です。性毛は親や教師がお風呂で自分のを見せて「性毛だよ性毛(子どものわかりやすい言葉で、ちん毛と言ってもOK)大きくなったら生えるよ」と教えましょう。精通については「朝起きてパンツが濡れていたり、おちんちんから白いものが出たりするときがあるけれど、それは赤ちゃんのもとになる精子というものだよ。大人になった証拠です。だから自分でパンツはきちんと洗って始末をしましょうね。」と。初経については、母親の月経のようすを前もって見せてあげながら「赤い血液は赤ちゃんを育てるためのもの。大人になるのよ」と説明し、ナプキンをつける練習もするといいでしょう。きれいな小袋に生理のショーツとナプキンを入れて渡しておきましょう。どの子も大人になる期待を持って二次性徴を迎えられることが大切です。人間としての成長に確信をもってこそ、二次性徴に伴う混乱を乗り越えていけるからです。
 二次性徴から思春期が始まります。思春期は基本的に体調が優れない時です。情緒が不安定になったり、パニックが増えたり、一時的に障害が重くなったりもします。こうした子どもの体調にも、十分な配慮が必要です。

思春期の人格形成に性教育は必須教科です

子どもたちは性的な体の変化だけではなく、異性にも強い関心を持ち恋愛感情にモンモンとしたりして悩みます。その苦しみに追い打ちをかけるのが 巷に氾濫する卑猥な性情報です。人間不信に陥るような様々な性情報に障害児たちは胸を痛めますし、模倣をして問題行動になることもあります。誰も教えてくれない、タブーとする性のことを、学校の公教育でこそ教える必要があります。性教育は子どものニーズに応える教育です。
 性教育の内容は広範にわたります。人間の成り立ち(受精、胎児、出産)、人間の成長(赤ちゃんから老人まで)、男、女、多様な性、二次性徴、男女交際、同性愛、恋愛、性交、避妊、妊娠、性被害・加害、中絶、結婚、様々な家族、おしゃれ、デート、そして障害の学習などなど。
 子どもたちは性教育が大好きです。知りたいこと満載の教育です。人生が明るくなります。ですから教師を信頼してくれますし、性教育のある学校には張り切って通い、学習意欲も高まり、自分を肯定的に捉え、誇り高い青年に育ちます。集団で性を学ぶことは、子どもたちに生きる勇気を与えます。そういうわけで性教育は思春期・青年期の子どもたちに対する必須教科です。ぜひ、学校での性教育を親から要求して下さい。
 学校とともに、家庭でも性について話せることが必要です。性が語れる家庭は、明るい家庭です。家族で性についての絵本を読むと良いでしょう。男の子の性器は「おちんちん」女の子の性器は「おちょんちょん」。このことばを使って、子どものうちから、性についてオープンに話せる家庭生活を大切にしましょう。そうして二次性徴を前もって教えてあげることで、子どもが期待感をもって二次性徴を迎えられるようになります。

性教育の目的は「心とからだの主人公に」

ここで障害児の「性的自己決定」とか「性的自立」について考えてみましょう。性的自立(性について自分で考え行動できること)ということは、言葉を換えると「心とからだの主人公」になることです。このことは、その子が全面的に発達した姿で、その子なりに考えて、性的な行動を決定していくことを言います。しかし、性的なかかわりですから、当然子どものうちは誰でも失敗があります。失敗しながら発達を深めていきます。
 まず「からだの主人公」に、と言うことでは「その子の体はその子のもの、どこを触ってもいいのです」という言葉があります。男の子も、女の子も、性器をさわれて、いつでもきれいにできることが大切です。
 男の子の外性器はいつでも触れますし、さわれば気持ちの良いものです。「そこは汚い」とか「さわってはいけない」というような否定的な言葉を使うと、その子の人格を深いところで傷つけることになりますので、言ってはいけません。幼児期にはしっかりおちんちんを持っておしっこができるように教えます。排尿時に包皮をむくようにしてあげて、小学生ぐらいでは性器あらいを教えてあげましょう。それができるようになると、必要なときには自慰ができるようになることでしょう。自慰は自分の部屋かベッドでできるように教えてあげますが、教え方も、相手を尊重する丁寧な教え方が必要とされます。信頼できる同性者(父親、兄、先生など)が具体的に教えてあげたられると良いのです。
 話して分かる子もいますが、一般的に、ペニスを床にこすりつける自慰行為や、ズボンの上からの性器いじりなどは、子どもの緊急事態ですので、「ダメダメ」と禁止したり、無理矢理止めるようなことはしないようにしましょう。
 同じように、女の子の自慰行為にも否定的な態度は控えましょう。また、月経は健康な大人のからだのリズムです。「今月もきて良かったね」と言って健康チェックの日としましょう。
 いずれも具体的な行動ですので、周囲の人たちの発達観とセクシュアリテイが問われる課題です。
 「心の主人公」ということは、人と人とのかかわりの性のことです。人を好きになるということは当たり前のように思うかも知れませんが、障害をもった子にとっては、かなり勇気がいることで、サポートや激励が必要だったりします。学校時代は、学校で豊かな男女のかかわりを育てることが必要ですし、作業所のような成人施設では、率先して仲良しカップル(同性同士も)を育てるような取り組みをしてほしいと思います。こうした人間関係の中で、好きとか嫌いとか、イエスとかノーとかをきちんと判断できて、行動の選択ができるようになる(自己決定)のです。障害児教育には様々な”訓練”と言われる分野がありますが、こうした人間関係を育てるトレーニングが最も必要ではないかと思います。ある生活支援者は「障害者の幸せに金も財産もいりません。人を好きになるようにしてあげればいいのです。」と言っていました。中学校や高校では、男女が手をつなぐゲームやフォークダンスをしたり、デートコースの研究とか、デートの実習をしたりする学習を沢山取り入れて欲しいものです。障害児の、否人間の、命ある限り、人生は様々な出会いと別れが続くのですから。

性の加害と被害について

人間の性は、人と人との関係ですのでお互いを尊重できるかかわりでなくてはいけません。しかし残念ながらレイプとか買売春など相手の人権を傷つける性的かかわりもあるのです。
 性の加害者の件ですが、障害児は基本的に優しい人たちですので、女性に飛びつくというような変わった行動はあっても、レイプというような危険な行動はできないと考えましょう。レイプができるのは健常者といわれる人たちです。
 性の被害ということでは、障害児(男の子も女の子も)が性の被害者になることがあります。事態が分かったら、被害届を出し、加害者が処分を受けるようにしましょう。そうすることで自虐的にならずに、誇りを失わずにすむからです。
 しかし、養護学校高等部などでよくある障害児同士の”性交事件”などは、男の子が加害者で女の子が被害者と言うことではありません。お互いの気持ちをよく聞いて、未熟な性行動について丁寧にケアをしてあげたいものです。
 もう一つ心配なのは障害児に対する虐待です。子育てが、密室の中での孤独な仕事になっていると、いつの間にか虐待になることがあります。障害児の親に対する援助が必要です。とりあえず、親同士のグループ活動で、お互いに助け合ったり悩みを話し合ったりしていくことが大切です。それに、もうお気づきでしょうがパートナーとの優しい性的かかわりが大切ですね。
 先にも書きましたが、障害児の周囲の人たちのセクシャリテイが彼らの豊かな性を育むのです。どうですか、読者の皆さんのセクシャリテイが少し変わりましたでしょうか?

〜家庭で読むお薦めの本〜
  • 障害児(者)のセクシャリテイを育む  大月書店 1500円
  • 写真絵本 おんなのこってなあに おとこのこってなあに 福音館書店
  • おちんちんの話 子どもの未来社 1400円
  • 絵本 女の子 男の子 岩崎書店 各1100円
  • ぼくはジョナサン エイズなの 大月書店 1300円
  • ラブ ユー フォウエバー 岩崎書店 2400円 
  • → 本をさがす・買う

  •  「性」について (2)  「お父さん、出番ですよ」  
     「性」について (3)  「性教育の内容と目標」 2003年版

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