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「性」について (1)「思春期・青年期の性教育」 / (2)「お父さん、出番ですよ」 / (3)「性教育の内容と目標」

お父さん、出番ですよ 
                      東京都心身障害者福祉センター 山本 良典

(1) 知的障害児の性と基本的な考え方

子どものからだと心は日々成長しています。その成長にあわせて教育が行われているのであれば、その中に性の教育が含まれているはずです。性教育はどう大人になっていくかという一人ひとりの生き方にかかわる総合教育と考えられます。知的障害児も当然のことながら、障害のない子どもと同じように思春期を迎え、大人へと成長していきます。小学生段階では、排泄・清潔などの基本的生活習慣のしつけと関連づけながら、具体的な生活場面を通して性の指導をすることが大切です。中学生段階では、基本的生活習慣が獲得されていることを確認しながら、対人関係における適切な性的行動の学習へと発展させる必要があります。
 中学生期は性の面でも大きな変化が見られ、女子のほとんどが初潮を迎え、月経があるようになります。女子よりも遅れますが、男子も精通を迎え、夢精があるようになります。こうした生理的な変化にともなって心理的にも大きく変化し、情緒不安定や精神的動揺を引き起こしやすい時期でもあります。知的障害児はからだと心に関する疑問や不安を自分で解決することが困難であるために、性の問題が障害のない子どもよりも行動上の問題として発生しやすいといえるでしょう。障害児の性教育もこのような生理的な発達にあわせて性の心理的・社会的発達をうながす必要があります。障害児の性的発現をあたりまえのこととして受け入れ、精神年齢でなく生活年齢を基本においた肯定的な指導が大切です。例えば、精神年齢が8歳であっても、生活年齢が15歳であれば、15歳なりの性的発達をしているわけですから。8歳の子どもと同じように接することはできません。
 中学生期は成人への準備教育として、子どもがからだと心の変化を肯定的に受け止められるように指導しなければならない大切な時期です。親は子どもが成長していく道筋で、どんな大人になってほしいと考えて子育てをしているのでしょうか。知的障害児をもつ親は子どもの性的成熟に対して心の準備ができていなくて、とまどいや不安をもち、ストレスの高い状態におかれているようです。人間は生まれたときから障害の有無に関係なく性的な存在であるにもかかわらず、知的障害児は性の発達がなかなか認められず、いつまでも子ども扱いされがちです。また、知的障害児の性の目覚めは大人になってきたしるしとして理解されるよりも、やっかいなこととして認識されやすい現実があります。障害のない子どもは親の保護からしだいに離れて、友だちが人間関係の中で大きな位置を占めるようになりますが、知的障害児は親への依存から抜け出せず、親も子離れできない状態が見られます。親たちの多くは子どもが健やかに育ち、よい大人になってくれることを願いながらも、性の指導に対しては否定的態度を示しがちです。こうした状況の中で、知的障害児はからだと心の変化について身近な人から情報を得たり、適切な性的行動のとり方について学習する機会が少ないために、自分の性を肯定的に受け止めることができなくなっています。学校でも家庭でも、マスターベーション、性交・避妊、性病、妊娠・出産という内容についてはなかなか教えられていません。知的障害児は性について自ら学ぶことが困難であるだけに、このような内容についても学校や家庭できめ細かく教えることが大切ではないでしょうか。軽度の知的障害児は自立に必要な社会的職業的スキルを習得するだけの知的能力を持っているにもかかわらず、性教育を受けることは少なく、デートや結婚、避妊、性交、出産、中絶などの意味や重要性を十分に理解していないことが多く見られます。性に関するプライベートな行動とパブリックな行動について学習することによって、社会的スキルも向上し、不適切な性的表現も減ることが指摘されています。

(2) 性指導における父親の役割

思春期における個別的な性指導では、同性の親が指導することが原則ですが、母親が指導の中心になることが多くみられます。特に、男子のマスターベーションは父親が指導しなければならない内容ですが、父親の関与が少ないのが現状です。ある家庭では、父親が男子にマスターベーションの指導をしてくれないので、母親が指導したところ、性的欲求が起きるといつも母親に近づくようになって困ったという話を聞いたことがあります。その男子はマスターベーションを自分で処理することではなく、母親にやってもらうことと学習したのかもしれません。
 父親が男子に性指導をしてくれないのは仕事が忙しくて、時間がないというだけではないように思います。父親は母親から催促されて性指導をしようとしても、日頃子どもとの関わりがないので、子どもの生活実態にあわせてどう対応してよいのかがわからないのかもしれません。父親は男性としての性的体験を持っていても、自分の個人的体験が障害のある子には当てはまらないのではないかと考えて、どう指導してよいのか不安を感じているのかもしれません。また、障害のある子の性的発達は障害のない子とはどこか違うのではないか、障害があるために教えても理解できないのではないかと考えて、指導をためらっているのかもしれません。さらに、多くの父親は思春期に男親から性、特にマスターベーションについて指導された経験がないために、子どもにマスターべーションを指導することに抵抗感を持っているのかもしれません。父親は男子の生活のモデルとして積極的にかかわってほしいと思います。

(i) 発達無視

知的障害児をもつ親は子どもが性に目覚めると、問題を起こすようになるのではないかという不安や恐れをもっています。そこで、「寝た子を起こすな」に代表されるように、性に目覚めさせないように気をつかい、いつまでも子ども扱いしがちです。せっかく今まで問題もなくきているのだから、寝た子を起こすとかえって問題になるんじゃないかと心配される親が多いのではないかと思います。寝た子も思春期になれば性に目覚めます。いつまでも寝ていてくれれば安心なのでしょうが、そういうわけにはいきません。また、すでに性に目覚めている子どもに対して、「うちの子はまだ子どもですから、いやらしい気持ちで女性に触ったのではありません。スキンシップを求めているだけです」と言って、目覚めている現実を否定しようとする親がいます。このほかに、親の中には、「子どもの障害が重いため、教えても分からないから指導しない」、「結婚の可能性もなくて性に目覚めさせるのはかわいそうだから、そっとしておきたい」と、考える人もいます。知的障害児も大人になり、性に目覚めるという発達の法則を考慮しながら、子どもとかかわる必要があります。

(ii) 自然成長

多くの親はおそらく学校で性教育をきちんと受けていない世代ではないかと思います。ところが、学校で性教育を受けていなくても、個人的体験を通して性について学び、結婚して子どもを生んでいます。そこで、性というのは成長するにつれて、生活のなかで自然に必要に応じて学ぶものだから、特に性教育をする必要はないという考えが自分の体験から出てきます。うちの子どもは今のところ性に興味もないから、教える必要はないだろうということになってしまいます。しかしながら、知的障害児は自ら性について学ぶことが困難で、教えなければ学べないということを忘れてはならないでしょう。知的障害児だからこそ自然な成長にまかせるのではなく、障害のない子ども以上にきめ細かな性指導が必要になってきます。

(iii) 段階的指導

今は読み書き計算などの学習指導をきちんとして知的能力を高めることが大事で、その後で性について教えれば理解してくれるのではないかと考える人がいます。このような考え方では、体は立派な大人であっても身辺自立がまだできていない障害の重い子どもたちには性指導がいつまでもされないことになってしまいます。例えば、障害が重いために小さいときからトイレではズボンやパンツを下げて排尿する習慣になっていると、大人になってからも同じ行動をします。大人になってからの行動修正は大変難しいものです。身辺自立の指導や日常生活の指導の段階からすでに性指導は始まっているのです。生活年齢にあわせた段階的な性指導が大切です。

(iv) 責任回避

親は性はやっかいなもので、できることなら避けたいとか、指導したくないという苦手意識を持っています。その結果、父親が指導しなければならない内容であっても、何も指導しないで終わってしまったり、母親が指導して問題が起きることになります。性についての個別指導は同性の親が関わることが原則です。
 どの養護学校や障害児学級でも、性に関する研修会は平日に行われることが多く、父親の参加がほとんどありませんでした。父親はいやがってなかなか指導してくれないので困っているという話を母親からよく聞きます。また、父親にも研修会を開いてほしいという要望があります。父親のための性教育講座が開かれ、父親が男子の性に関わることの大切さを理解し、父親同士で男子の性について情報交換をして、苦手意識を軽減することができるようになるといいなあと思います。また、性教育は特別のことではなく、子どもの毎日の生活を整えることが性の指導につながっていることに気づいてくれるといいなあと思います。さらに、研修会を通して父親と母親が子どもの生活について、親の役割分担について話し合うきっかけになってくれることを期待しています。

〜お薦めの本〜
  • 「男女交際・結婚・家庭生活のガイド」   大井清吉・山本良典他編 (1988) 大揚社
  • 「ておくれの子の性指導」   大井清吉・山本良典他編 (1989) 福村出版
  • 「癒しのセクシートリップ・・・私は車イスが好き」   安積遊歩 (1993) 太朗次郎社
  • 「知的障害のある人の性とその周辺を理解する」 (2000)
  • 「親になる」 (2000)
  • 「ここまできた障害者の恋愛と性」   障害者の生と性の研究会 (2001.8.) 
      かもがわ出版 http://www.kamogawa.co.jp/
      「障害者が恋愛と性を語りはじめた」(1994); 「知的障害者の恋愛と性に光を」(1996); 「障害者の恋愛と性」シリーズの第3弾
  • → 本をさがす・買う
  •  「性」について (1)  「性教育について」 2003年版
     「性」について (3)  「性教育の内容と目標」 2003年版

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